みんな、ときどきひとり

「いい父親ですね」

「うん」

そうだね。

優しくていい父親だよね。

血の繋がりのないわたしを弟と同じ扱い。

ううん、わたしのほうが特別扱いされているかもしれない。

そうやって、わけ隔てなく接そうと努力してるもん。

馬鹿みたいに。

それが、わたしの心を曇らせてるなんて、知らないで。

いい人だよ。

「水城くんのお母さんは、優しい人だった?」

父のことを話したせいか、自然と聞いてみたくなった。

「小2のときに死んだからあんまり覚えてないです」

「小さいときに死んじゃったんだ……病気とか?」

触れていいことかわからなくて、恐る恐る訊く。

「事故ですかね。ベランダから、転落死」

曖昧に答える暗闇の背中にはなぜか夜とは別の深い影がさしているみたいに見えた。

「そうなんだ。お母さんも、もっと一緒にいたかったんだろうね」

「さあ、どうなんですかね」

「きっと、そうだよ」

親だもんね。

「先輩」

小さくわたしを呼ぶ。

「俺、親が子供のことを絶対に愛するなんて思ってないんですよ。
だから、先輩。
先輩は悪くないから、先輩のこと必要としてくれる人だけでも信じれればいいんじゃないかって。
ダメじゃないから。
俺、そう思います」

背を向けたまま、そう呟いた。

それはまるで、自分に言い聞かせるかのように言っているみたいな話し方だった。
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