みんな、ときどきひとり
それだけのこと
夢を見た。
夢というより、それは随分リアルで。
よくよく思い返すと寝る間際に思い出していたことなのかもしれない。小さな、わたしを。
「何でこんなことしたの?」と、母がわたしを叱った。
なぜ怒られているのかはわからない。
だけど、その怒った顔を見るとちょっとしたイタズラをして怒られたようには見えない。
「ごめんなさい。ごめんなさい」と泣きじゃくっていると、玄関のドアがぴしゃりと閉まり、鍵がかけられた。
ドンドンドンとドアを叩いて「ごめんなさい」を何度も連呼した。
何の反応もなかった。
あたりは夜で真っ暗だ。
行くあてもない。
雨の中、わたしは母の機嫌が良くなるまで、そこで蹲まっていた。
降り止むことのない雨をただ聞きながら、冷えていく身体を抱きしめて欲しかった。
目覚めると知らない天井がわたしの目の前に広がっていた。
「あれ?」と一瞬どこにいるのか、わからなくなったけれど、横に寝返りをうつと毛布にくるまって眠っている水城くんがいた。
意識がはっきりした。
瞼を閉じて、小さな寝息をたてている。その無防備な姿を見ると、普段の冷たさが嘘のように感じてしまう。
本来は、こんな可愛い姿をしていて、日常生活だけ氷の着ぐるみでも着てるのかな、なんて考えてしまった。
「氷王子」美和子がいつか適当につけた名前を呟いた。
そんなお話があるなら、いつか氷が溶ける日を夢見てる王子。そんなストーリーかもしれない……なんて、陳腐過ぎてくだらないか。
足音を立てないようにして静かに部屋のドアを開けた。