みんな、ときどきひとり

「そうですか?」

「うん、卵の半熟具合とか最高。お家で料理やってるでしょ?」

「たまにやりますけど。あんまりおいしいとか言われたことなかったんで」

「ほんとに?勿体ない。こんなにおいしいのに。作ってくれたものに何も言わないなんてね」

笑顔をわたしに向けた。

どこかで聞いたことのあるフレーズだと思っていると、遊園地で水城くんがパウンドケーキを食べたときのことを思い出した。

「ほんとだ。姉ちゃんなんかのご飯より全然うまい」

ワンテンポ遅れて、水城くんが言う。

「そうだけど。わたしの料理がまずいように言わないでよ」とお姉さんがパシッと頭を叩いた。

それを見てわたしが笑えば、ほのかちゃんも、手を振っていた。

空気で楽しんでいるってわかるのかもしれない。話せないのに不思議だな。

家族ってこんな感じなのかな。

幸せに満ち溢れていて、自然と笑えたり、思っていることを気を遣わないで言えたり。

ただ羨ましく思った。

この光景を見て。

だけど、わたしには何もない。

この場所にいても、わたしには何もないんだ。

あくまでも幸せなのはこの家族なのだから。

わたしではない。


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