みんな、ときどきひとり
しばらくして水城くんがバイトから帰ってきた。リビングに入るなり「あ、いい匂い」と呟く。
「今夜はカレーだよ」とわたしが言うと「カレーですか」と言って、ソファに座った。
「じゃあ、わたしそろそろ帰るね」
「帰るんですか?」
「うん。ほら、悪いしね」と小声で呟いたあと、お姉さんにお礼の言葉を言って部屋をでた。
一緒に食べようと言われたけど、そろそろ親も心配するんで、と思ってもいないことを口にした。
そのまま、寝室のベッドの上に置きっぱなしの携帯を手にする。
「親、大丈夫なんですか?」
いつの間に来たのか、振りかえるとドアの前に水城くんがいた。
「うん。家出終了。あとはまたいつも通り」
「ふうん」
「ねえ、水城くんはなんで自分は誰のことも好きにならないって思えるの?」
「また、そういう話ですか」
うんざりしたような顔をしながら、視線を下に落とした。
「また、そういう話だよ……だって、知りたい。なんかわかんないけど、すごく知りたい」
彼はわたしのほうに顔を向けたが、口を開かなかった。
「それはなにか理由があるの?」
再び、静寂が訪れる。彼は一点を見つめている。そして、重い口を開いた。