みんな、ときどきひとり
その顔を見ていることが出来なくて、わたしは駆け出していた。
エレベーター前に着くと、慌てて下りるボタンを押す。息が荒くなる。
だけど、振り返っても追ってくる彼の姿はなかった。
わたし、なに言ってるんだろう。
なにを言ってるんだろう。
8階に止まったエレベーターのドアが開いた。
乗り込んで閉じると、わたし一人を乗せてそのまま、ゆっくりと下降していく。
だって、彼の付き合ってみたらいいって言葉がわたしとの距離を広げた気がしたから。
彼のすみません、言いたくないって言葉がわたしを突き放した気がしたから。
それが、すごく嫌だった。
彼に届かない気がしてすごく嫌だった。
友達を家に連れてくるのなんてないからって言ったお姉さんの言葉を思い出す。
あんな楽しそうな声聞くの初めてって言ったお姉さんの言葉を思い出す。
そんなこと言われたから、わたしは彼にとって特別な人なんだと思ってしまったのかな。
特別な人だと思い込んで、浮かれてたのかな。
でも。なんかそれって、まるでわたしが彼のこと好きみたいじゃん。
なんかそんなのって、変なの。
変だよ。
そういう風に思ってもらいたいみたいじゃん。
なんかそれって……わたしが、まるで―――。
チンと音がしてエレベーターのドアが開いた。
「それって、やきもちじゃない?」って言った美和子の言葉を思い出す。
そっか。
わたしは、彼のことが好きなんだ。