みんな、ときどきひとり
「先輩」
「ん?」
「俺、先輩に優しくしてるつもりなんかなかったんですけど。もし、俺のしたことが不快だったら謝ります。すみません」と彼が言うと、顔を上げる。わたしと目が合った。
「そんなんだったら、俺見かけてもシカトして下さい。それがいちばん楽です」
言葉を一瞬、失った。
「ちが……そうじゃなくて……」と言いかけたわたしの言葉を遮るように言った。念を押すみたいに。
「お願いします」
チャイムが鳴り響く。
水城くんは、わたしに背を向けて歩き始めた。
話しかけるなと言われてるみたいだった。
5時間目の始まりを告げるチャイムは続く。
それは、まるで、終わりを告げているかのように聞こえた。
だから、なにも言えなかった。