みんな、ときどきひとり

「他人のことを知りたいと思うことなんて、ただの好奇心にしか思えません」

好奇心。

人を好きになって、その人を知りたいと思うのは、その人を感じたいと思うのは、好奇心という心になるのだろうか。

「俺はそういう風に人に見られることが嫌いです」

わからなくて、口をつぐむ。

「すみません。先輩がダメとかじゃなくて」と彼は言った。

「俺は人の気持ちをそうとしかとらえられないような奴です。だから、先輩のこと先輩と同じ気持ちで見れません」

そう言って、保健室のドアへと向かう背中を無言で、わたしは、見送った。

しばらく、放心していたのだろうか。

気がついたときには、涙が溢れていて、同時に心臓も痛い痛いとわたしを締め付けていた。

それが、鳴咽に変わる。

もう前みたいな関係には戻れないんだ。

話も出来なくて、好きと思ってもいけないんだ。

ああ。そうか。そうして、忘れていくんだ、彼のことを。

こんなに、彼のことが好きなのに、どうして忘れなきゃいけないんだろう。

そう思いながらも涙はとめどなく、心の海から津波の様な勢いで寄せては返して、そして気持ちさえも、揺さぶっていくけど。

泣いたって仕方ない。

彼はもういない。

好きになって、くれない。

それだけが、今、確かにわたしが、わかること。
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