みんな、ときどきひとり
水月ちゃんがわたしを見ていて、石みたいに固まっていた。目が合うと、早足に立ち去ろうとする。
「水月ちゃん、待って!」と呼びかけると、彼女の肩がビクッと持ち上がった。
立ち止まって振りかえると「わわわわたしじゃないわよ!」と震えながらも強い声で叫んだ。
「知ってるよ」
笑うと、彼女は何も言わなかった。
「聞いて。わたし、あれから水城くんのこと好きになったよ」
水月ちゃんの顔が強張った。
「でもね、告白したら振られちゃった。
ごめんなさいだって。はは。
……だからね、水月ちゃんが憎むほど、わたし、何も持ってなかったんだ。
ごめんね。
憎むような相手でもなくて、ごめん」
言い終わると、わたしは下駄箱から落ちたゴミを手で拾った。
本当にそうだ。
わたしは何も持っていなかった。
言って自分で痛感した。
何もない。
わたしには何もない。
恨まれる資格さえない。
また、涙がこぼれそうになる。