みんな、ときどきひとり
女の子の上履きが見えた。
見上げると、ほうきとちりとりを持った水月ちゃんが立っていた。
「こ……これ。
そっちの掃除用具にあったから。
手なんかで拾うより、時間かからないと思います」かぼそい声で、彼女は言った。
「ありがとう」と言って、ほうきを受け取る。水月ちゃんは黙ってちりとりを持ったまましゃがんだ。
黙々とゴミを掃きながら、何も話し掛けてこないこの子を見てると、本当は人と話すのが苦手な子なのかもしれないなと思った。
近くにあったゴミ箱に、ゴミを捨てる。
「ありがとう」と彼女の去り際にもう一度言うと、何も言わずに頭を下げた。
彼女が。
どんな気持ちでバイトをしていたのか。
どんな気持ちで遊園地に行ったのか。
どんな気持ちで手紙を書いたのか。
どんな気持ちで水城くんのことを好きだったのか。
彼女のことはよく知らないから、考えてみてもやっぱりわからなかった。
ただ今日の彼女は、あの日わたしを突き飛ばした彼女より穏やかに見えた。
それは、優しさを貰ったからそう思えただけなのかもしれないけど。
わたしが、そう思いたかっただけなのかもしれないけど。
根が悪い子なんてきっといない。きっと、きっといないよね。
大きく深呼吸をする。
身体を巡る新しい酸素が、違う恋を持ってきて、水城くんのことなんか忘れさせてくれればいい。