みんな、ときどきひとり
崩れた心とその手を
「そっかあ。ついに告られたわけね」
美和子と梨花の家で受験勉強という名目で集まってみたけれど、ほとんど、話ばかりをしている。
「今も連絡くるんだ?」
「うん。前と何も変わってないからね」
「でも、好きになれそうにないならシカトするのも優しさかもよ」と梨花が言った。
「そうだね」と言いながら、別に優しい人に思われたいわけじゃないしな、なんて思った。
どうしたいかは彼がきっと、決めることだし。わたしもそうする。
「ねえ、優菜、大丈夫?無理してない?」
美和子が優しい目を向けた。
「うん」
だから。少し考えて頷いた。
だけど、この前の真理恵ちゃんのことがショックだったせいなのかな。
なぜか今は誰かを好きになれるような気持ちじゃないんだ。
水城くんも、こんな気持ちだったのかな、あの時。
とりあえず、今はこうして皆で遊んだり、予備校に行ったり、海に行ったり、夏休みを楽しんでいればいいのかな。
だって高校生、最後の夏だし、彼氏はいなくても、楽しんだほうがいいんだ。
そして、気がつけば夏休みも、もう折り返し地点を過ぎていた。
部屋の窓を全開に開ける。カンカン照りの8月の日差しが部屋の中に差し込む。今日は、用事もない。
なんとなく思い立って、階段を下りた。リビングにいる母に声をかける。
「スーパー行くけど、買うのある?」
少し間を置いて、「ないわよ」と言った。
あれから、母とは何事もなかったかのように普通に接している。
母にとっては、本当に何事もなかったのかもしれないけど。