みんな、ときどきひとり

「そうだ。花火大会、浴衣着ていかない?」

「浴衣ですか?」

「うん。久しぶりに着たいと思ってたの。やっぱ花火大会は浴衣だよね」

少女のようにはしゃぐお姉さんは可愛らしかった。

一昨年買ってもらった薄紫の浴衣があることを思い出す。

去年は、一度も袖を通した覚えがないし、せっかくだから気分を変えてみようかな。

「じゃあ、そうしましょうか」

とりとめのない話をしていると、寝ていたはずのほのかちゃんも会話に混ざりたいのか、目を覚ました。

ガラガラであやすと、アーアーと声を出す。

笑ってるのかな。

以前より、表情が豊かになった気がして、こんなに小さくても生きる為に頑張って成長してるんだなって、実感した。

言葉で伝えられない分、泣いたり笑ったり自分を主張して必死に生きてるんだ。






「お母さん。浴衣、何処だっけ」

家に帰り、母に声をかけた。忘れないうちに。

「浴衣?ああ、もうすぐ花火大会ね」

面倒臭そうな顔をして腰をあげた。

一階の和室の洋服棚を開けて、「ええっと、確か」と思いだすように呟いている。

そう言えば、この部屋はあまり入ることがないな、と周りを見渡す。

昔母が買った変な健康器具や使わなくなったピアノにカバーをしてある。

そういえば小学校のときまで習ってたな。

続けたかったけど、勉強を理由にやめたんだったっけ。それからあまり触らなくなった。
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