みんな、ときどきひとり
「予備校帰り。水月ちゃんは?」
「バ……バイト帰りです」と言った瞬間、後ろからスーツを着た小太りの男が、水月ちゃんに「邪魔だ!」と怒鳴りながら通り過ぎて行った。
「具合悪いから仕方ないでしょ!」
思わず、声をあらげて言ったものの立ち止まることもなかった。
「すごい剣幕ですね」
「だって、何も知らないくせに、あんな暴言吐くなんて腹立つじゃん」
「みみみんな、そうですよ。通り過ぎる人の気持ちなんかわかりませんもん。立ちくらみしただけだから、大丈夫です」
彼女はゆっくりと立ち上がった。
「先輩は……」
「ん?」
「今、お暇ですか?」
背筋をまっ直ぐ伸ばした彼女の身体に、また太陽の光が当たって白く輝いて見えた。
近くのカフェに入る。アイスコーヒーとアイスカフェラテを置いたテーブルを挟んで彼女と向かいあった。
予想外の展開です、と心の中で呟いてしまうほど驚いている。
だって、この子、わたしのこと嫌いだったよね。
どうしたんだろう。
アイスコーヒーを飲みながら、この子は今、何を考えているのか不思議でならなかった。
彼女から誘ってきたのに、沈黙が続く。
「あっ。よく、貧血になるの?」
「昔から……」
「そっか。大変だね。」
話が質問ひとつで弾むわけもなくて、落ち着かず、グラスにさしたストローをグルグルと回す。