みんな、ときどきひとり

なんで、わたしが。

そう思ったけれど、コロコロ地面を頼りなく転がっていくボールを追いかけた。

屈もうとしたときだった。

横から手が伸びて、先にボールが拾われたのは。

「あ」

男の子だった。顔をあげたわたしには目をやらず、遠くにいる彼らに向かって、大きく腕を振って投げた。

「あ、ありがとうございます」

いちおうの御礼を言ってみるけど、顔がよく見えない。前髪が長くて、目の下まで隠れている。

その割には、綺麗な黒髪。風が吹いたらサラサラと音を立てそう。

彼は何も言わず、渡り廊下へと歩いて行った。

華奢な背中だった。

それにしても、返事さえしてくれないなんて。聞こえなかったのかな。そうは思えない距離に、首を傾げたくなった。
< 3 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop