みんな、ときどきひとり
改札に入って「じゃあ、気をつけてね」と言うと、彼女は黙って下を向く。
「今日は、話を聞いてくれてありがとうございました」
「えっ。ううん」
「わわわたし、誰かに、わたしの気持ちを聞いてもらいたかったんです。
理解なんかしてくれなくてもいいから。
誰にも言えなかったから。
聞いてほしかったんです。
ううん。
ただ言いたかったんです」
「うん」
話を聞くだけで、何かが救われるなら、なんべんだって聞ける。
「ごめんなさい」と言って、彼女は背を向けて歩いた。
わたしはいらないんじゃない。
必要だって、誰がいつ、教えてくれることなんだろう。
そのままでいいんだよって、誰が気づかせてくれるんだろう。
生きていたら、自然と知ることのように、みんなは平然と言うけれど。
「水月ちゃん!」
その小さな後ろ姿の名前を呼んだ。彼女は立ち止まり、ゆっくりと振り返って、わたしを見た。
「水月ちゃんはいらない子なんかじゃないよ。
だって、わたしは出逢えて良かったと思ってるよ。
忘れること、ないから」
その顔はわたしを怪訝そうに見つめていた。
わたしに、こんなことを言われてもきっと嬉しくもないんだろうけど。
なんの励みにもならないのかもしれないけど。
だけど、わたしが言った言葉が今じゃなくてもいいから、いつか彼女のそんな心の中に届くといい。
励ましとかじゃなくていいから。
だって、本気でそう思ったから、伝わってほしいんだ。