みんな、ときどきひとり
一緒に行くの止めようかな。立ち止まった。
でも、ここで話さなかったら一生口きけなそう。
自分にそう言い聞かせて、また小走りでかけよる。今度は、隣に。
「ねえ」と言っても無反応だった。
聞こえてるでしょ、この距離。
「ねえ、水城くん!」
わたしを見ない。話さない。
一言くらい、発してくれてもいいじゃん。こんなに近くにいるのに。
「シカトしないでよ!馬鹿!」そう叫ぶと、彼はようやく足を止めて、わたしの顔を見た。
目が合った。いつもの静かな視線と。
「俺だけみたいに言わないで下さいよ。先輩だって、シカトしてたじゃないですか」
「それは、私が振られたからでしょ。だって、最初に水城くんが言ったんじゃん。俺見かけたらシカトして下さいって。それがいちばん楽だからって言ったじゃん」
「あのときは先輩が怒ったからじゃないですか。俺は、わけがわからなかったです。先輩がどうしてほしいのかわからなかったです」
「わからなかったからって楽なほう選ばないでよ」
「一方的に言われて、走って逃げられたら誰でも、そうしたほうがいいのかと思いますよ」
「じゃあ、なんで、今もシカトするの?」
「突然現れるからですよ。つうか、なんで、ここにいるんですか?」
「お姉さんに誘われたの。別に水城くんが来るなんて思ってもなかったからね」
「俺だって、先輩がいるなんて、思ってませんよ」
勢いよく話し出したせいか、周りが冷ややかな目でわたしたちを見つめていることに気がついた。