みんな、ときどきひとり
パタンとドアが閉められた。
えっ?と見上げると同時に、気持ち悪さがこらえきれなかった。
それから、わたしをしゃがませ背中を優しくさすった。
「吐いて大丈夫ですよ」と、言ったのは、低い男の子の声。
なんで?と思う間もなく、嗚咽の嵐が到着した。
しばらくすると、トイレのドアが開いて、「優菜ちゃん?どうしたの?」と、梨花の好きな彼が、目を丸くしてわたしに駆け寄って来た。
「気持ち悪くて」
「吐いてたのっ?あっ、すみません。この子の連れです。ありがとうございました」
わたしの背中をさすってくれた人に頭を下げて独り言のように水もらってくる、と呟いて出て行った。
吐いちゃったんだ。最悪だ。しかも、見ず知らずの人の前で。
「本当にすみません」と謝って、顔を見た。
「いいえ」と表情を変えずに言った。
わたしとタメかひとつ上位だろうか。歳はあまり変わらないように見える。
黒い長めの前髪から覗く、細いきりりとした目。
なんと言うか、キツネに似てるかも。
わたしと目が合うと、そのまま伏せた。