みんな、ときどきひとり
「さっき、誰かわからなかったです、一瞬。イメージ変わりますね、浴衣って」
「ほんとに?女っぷりあがった?」と冗談のつもりで言った言葉が冗談になっていない。
これじゃ、可愛いとか言われたいみたいじゃん。間抜けなことをした。うざい女だ。
恐る恐る彼の顔を横目で見た。
「そうですね。爪先くらいは」
「何それ?喜んでいいわけ?爪先で」
爪先か。
爪先分可愛いのか。爪先分女があがったのか。どっちでもいいけど頬が緩んでしまった。
あれ。話せた。普通に。
それより、さっきわたしが言ったこと、聞こえてたのかな。
今、隣にいる水城くんは、さっき怒鳴っていた感情的な彼ではなくて、いつもの素っ気ない水城くんだった。
赦してくれたのかな。
でも、また勘違いかもしれない。
「焼きそばひとつ」と悩んでるわたしには目をくれず、横で水城くんは注文をする。
そういえば、あんな感情的な水城くん見るの初めてだった。
今までなら、わたしが泣いても動揺することもなかったのに。
まあ、わたしの言い方が悪かったんだろうな。また一人で反省する。
「花火始まるよ。急ごう」とはしゃぐ中学生位の女の子達の声が聞こえた。
もうそんな時間なんだ。確認しようと、巾着から携帯を手にすると、簡易留守録一件の文字が画面に浮かんでいた。