みんな、ときどきひとり

「さっき、誰かわからなかったです、一瞬。イメージ変わりますね、浴衣って」

「ほんとに?女っぷりあがった?」と冗談のつもりで言った言葉が冗談になっていない。

これじゃ、可愛いとか言われたいみたいじゃん。間抜けなことをした。うざい女だ。

恐る恐る彼の顔を横目で見た。

「そうですね。爪先くらいは」

「何それ?喜んでいいわけ?爪先で」

爪先か。

爪先分可愛いのか。爪先分女があがったのか。どっちでもいいけど頬が緩んでしまった。

あれ。話せた。普通に。

それより、さっきわたしが言ったこと、聞こえてたのかな。

今、隣にいる水城くんは、さっき怒鳴っていた感情的な彼ではなくて、いつもの素っ気ない水城くんだった。

赦してくれたのかな。

でも、また勘違いかもしれない。

「焼きそばひとつ」と悩んでるわたしには目をくれず、横で水城くんは注文をする。

そういえば、あんな感情的な水城くん見るの初めてだった。

今までなら、わたしが泣いても動揺することもなかったのに。

まあ、わたしの言い方が悪かったんだろうな。また一人で反省する。

「花火始まるよ。急ごう」とはしゃぐ中学生位の女の子達の声が聞こえた。

もうそんな時間なんだ。確認しようと、巾着から携帯を手にすると、簡易留守録一件の文字が画面に浮かんでいた。

< 310 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop