みんな、ときどきひとり
誰だろう。メッセージを再生すると、母の動揺した声が耳元で流れた。
「だ、大が事故にあったって。病院から連絡あって。病院に行ってるから」
一瞬、なにを言ってるのかわからなくて、もう一度メッセージを確認する。
もう一度聞いても母の動揺した声だった。
ひと呼吸おいて、母に電話をする。
手は知らないうちに汗をかいてべとべとしていた。滑ってうまく、ボタンが押せない。
「おかけになった電話は電波の届かない場所か…」
圏外のアナウンスが受話器越しに聞こえる。
通話を終了させ、また発信キーを押す。
繋がらない。
「どうしたんですか?」と、水城くんが言った。
「あっ。なんかお母さんから弟が事故って病院に運ばれたって留守電にはいってて」
「事故?」
「うん、事故」
水城くんに言ってから、事故という言葉の意味を理解したように、色んな言葉が浮かんできた。
なんの事故なんだろう。
車にはねられたのか。プールで溺れたのか。頭になにか落ちて来たのか。
無事なのだろうか。実感が湧かなくて携帯をただ見つめてしまう。
「どこの病院なんですか?」
「えっと、大学病院」
「行きましょう」
「えっ?」
「病院」
「あ、うん」と言ったけど身体が動かない。
弟は無事なのだろうか。
どんな事故なのだろうか。
わたしは行ってもいいのだろうか。
「行きましょう」と言うと水城くんは迷わず、迷っているわたしの右腕をとって走り出した。
だから、わたしの足は自然と走り出せた。