みんな、ときどきひとり
病院についてから、母に電話をしたけど、電話はまた繋がらなかった。
中に入り、受付で「田口大」の名前を口にすると口頭で病室を案内された。
教えてもらった道順通りに向かう。
ツンとした消毒のような臭いが病院にいることを実感させた。
病室の前に着いて、立ち止まると、「俺、あそこのロビーで待ってますから」と水城くんが言った。
そっか。
ここからは一人で行かなくちゃいけないんだ。
一人で。
大丈夫?
自分に問いかける。
わかんないって、言われた気がした。
わかんない。
けど。行かなくちゃいけない。
それくらいは、わかってる。
「うん。ありがとう」
「大丈夫。ちゃんと待ってますから」
笑った。
その顔は、今まで見た中でいちばん優しい頬笑みだった。
うん、大丈夫。
わたしになにがあっても、笑顔で待ってくれる人がいるんだ。
また自分に言い聞かせながら、一人になる。
そのとき、ガラリと病室のドアが開いた。
出てきたのは、母だった。
「ああ。優菜、来てたの」
目が赤い。泣いていたのだろうか、母は憔悴しきっていた。
「来てたのって、あんな電話あったら来るよ。大は?どうしたの?大丈夫なの?」
早口でまくしたてた。