みんな、ときどきひとり

「うん。原付自動車って言うの?あれに乗ってて自転車を避けようとして、転倒したみたいなのよ」

「はっ?何で、原付乗ってるわけ?免許ないじゃん、あいつ」

「友達のお兄さんの借りたみたいなの」

「人の原付で事故ったの?」

「まあ、あとお詫びには行くから、それはいいのよ。無事でいてくれたら、それで。…なんであの子があんな目にあわなきゃいけないのかしら」

左手で、頭を押さえて俯いた。

それは、と言いかけて、一度口をつぐんだ。

「無事だったの?」

自業自得でしょと言う言葉を飲み込んだ。こんなとこで言い争っても仕方ない。仕方ない。

自分の大好きな息子が事故を起こしたんだ。命が大切なんだ。

親として、そう思うのは普通のことなんだろう。

こんなときにまで、弟の粗探しをしているようなわたしのほうがおかしいのかもしれない。

「さっき、処置してもらって、レントゲン撮ってもらったりしたんだけど、左足首骨折で全治4週間ですって」

「そっか。じゃあ、怪我だけですんだんだ」

「明日、念のため脳のほうも見てもらうけど。大丈夫そうよ。今、寝たみたいだから。今日はもう帰っていいわ。休ませてあげたいの」

「うん。じゃあ。顔だけ見て、帰るよ」

心の中の重りが一気に軽くなる。

生きてた。

良かった。
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