みんな、ときどきひとり
母の背後から、病室のドアを静かに開けた。
奥に行くとベッドに横になる、大の姿が目に入る。
上から見下ろすと、ギブスのはめられた足の他に、顔にも手当てした跡が残ってた。
痛そう。なんでここで傷ついて寝てるんだろ。不思議な気分だった。
ぱっと大の目が開いた。わたしを見た。
「姉ちゃんか」
「起きてたの?」
「あいつうるさいから、寝たふりしてた」
あいつ。母のことか。
「あ、そう。無事で良かったね」
わたしたちは小声で囁くように会話をする。秘密の話をするかのように。
「大、もう無茶するのやめなよ。原付も免許ないんだし、髪の毛そんな色に染めるのも似合ってないし。馬鹿みたいだよ」
「うっせーな。関係ねえだろ」
顔をわたしからそむけて、苛立つ声をだした。
きっと、今、いちばん言われたくないことだったのかもしれない。
「お母さん、泣いてたよ。あんたのその姿見て。嫌じゃない?人泣かせるの」
「俺の身体なんだから、どうしようが勝手だろ。何でお前に言われなきゃなんねーんだよ。あいつが泣いてたらなんなんだよ!」
「だって。わたしが事故ったって、お母さんは泣いてくれないよ?」
「はっ?」
「わたしがいなくなっても、お母さんは平気なんだよ?」
「なに言って……」
「あんたは、愛されてるんだから。泣いてくれる人がいるんだから。自分のことくらい、自分の身体くらい、大切にしなよ」
「なんだよ、それ。意味わかんね」
「心配してくれるのは当たり前じゃないんだよ」
大はわたしを睨むように見た。