みんな、ときどきひとり

ぎょっとしたのは、彼のTシャツの裾が汚れていたからだ。

原因は、この大参事のせいだって、酔っぱらっていても理解できた。

「すすすみません。Tシャツ。洗います。というか、弁償させて下さい」

申し訳ない気持ちでいっぱいで、何度も頭を下げた。

「いいですよ」

「いやいやいや。ダメれす」

若干、舌が回らないわたしにイライラしているのか、迷惑なのかキツネ男さんは無表情で手を顔の前で左右に振った。

「水持ってきたよ!」

さっきの彼が、店員と梨花たちを引き連れて戻ってきた。

「優菜、大丈夫?しかもなんで男子トイレにいるのよ?」と、梨花が困惑した表情でわたしを見た。

「えっ?」

目線を左に送ると、男性用の便器が目に入った。どう考えても男子トイレだ。

「酔っ払って間違ったみたい」

笑って言ってみたけれど、実際笑えない。もう恥ずかしくて仕方ない。いったいなにをやってるんだろう。

「これ、ハンカチ使って」

「ありがとう」

手を洗い、梨花のハンカチを受け取ったときには、さっきの男の子はいなくなっていた。

見ず知らずの酔っ払い女を介抱してくれるなんて、優しい人なんだろうな。

お礼をちゃんと言えば良かった。

あのTシャツ、大丈夫かな。

ああ、本当に、なにやってるんだろう、わたし。
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