みんな、ときどきひとり

何度、期待しただろう。

この人に、娘としての存在を認めて貰えることを。

何度、望んだだろう。

この人に、娘として愛して貰えることを。

だけど、この人を見てると愛なんか。

この人を見てると愛なんか。

なんて汚れたものなのかと思う。

人間の手垢にまみれた薄汚い言葉なのかと思う。

愛なんか言えば綺麗に聞こえるだけで、それ自体はその人自身を映したようなものだよ。

その人自身みたいなんだよ。

それでも、わたしはずっと欲しがっていた。

手垢まみれの薄汚れた言葉が、わたしに注がれることを待っていた。

こんな人なのに。

「お母さん。変なのは、お母さんのほうだよ」

そうだよ。病気みたいだよ。気持ち悪いよ。おかしいよ。

「なに?」

「なんでも言うことを聞く子供はいい子なの?
あんたの言うことを聞かなくなったわたしはダメな子なの?
わたしは、昔から、アンタに捨てられたくなくて、我慢して生きてたんだよ!」

わたしの肩に置かれた母の手に力が入らなくなったのか、ズルリと腕が落ちた。

< 320 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop