みんな、ときどきひとり

「わたしの……わたしのお父さんのこともそんなに嫌いだったの?
だから、わたしのことが嫌いなの?
お母さんは、お父さんに捨てられたの?
だけど、私は、お父さんにも捨てられて、お母さんにも捨てられた気分だよ。
子供にこんなこと思わせる親なんて、変だよ」

〝お母さん〟は、きっと、子供にこんな思いさせたりしないんだ。

親が子供にいい子とか完璧を求めるなら、子供だって、親にいい親とか完璧を求めてしまうでしょ。

そうでしょ?

そしたら、きっといい顔しないんだ。

言われないから、わかんないんでしょ?

でも、言えないんだよ。

あんたは子供から見たら、絶対なんだから。

押しつけないで、自分を。

「わたしは、あんたのお父さんに捨てられてないわよ。
別れたあとに、あんたがお腹の中にいたのよ。
だから、産んだの。
わたしは、捨てられてなんかいないの。
捨てられてなんかいないんだから」

言いながら、小刻みに顔を左右に振り続けている。自分に、そんなわけないと言い聞かせているかのように。

母は、自分のことを守るのに、必死だ。

なんで、この人が母なんだろう。

なんで、親は選べないんだろう。

それか、わたしが選び間違えたのかな。

それとも、なにか意味があるのかな。

いつか、言ってた。

親が子供のことを絶対愛するとは思わないって言葉。

今なら、その意味を受け入れられるような気がした。
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