みんな、ときどきひとり
だって。
もうこの人の顔色を伺って生きるのも、愛してほしいと思うのも、わたしを見てくれないと文句を言うのも、疲れた。
そんな、自分は醜い。そんなの言ってる自分が一番感じてる。
この人のことで傷つくなんて、もう嫌だ。
この人のことで苦しむのは、馬鹿げている。
でも、そんなわたしでも、悪くないって。
母に受け入れられないわたしでもダメじゃないって言ってくれた人がいたから。
わたしがしたことで、喜んでくれた子がいるから。
わたしのこと必要としてくれる人だけでも信じられるから。
少しだけでも。
それは、まだ小さいわたしの逃げ道でしかないんだけれど。
「あんたが、お腹の中にいたとき、彼とは別れてたのに。どうしてかしらね、おろすなんて思いもしなかった」
遠くを見るような視線で、母が小さく呟いた。
もう何も言わないでほしいのに。
わたしも、またつられて口を開いてしまうのはその言葉のせい。
だって、ずっと訊きたかった。
「それは……わたしを産みたかったってこと?」
「当たり前でしょ。好きな人との間に出来た子は宝物なのよ」と、母は言った。
もうなにも言ってほしくないのに。
なにを今さら、この人は。
お遊戯会の科白を言うかのように。
あのときの言葉をなんで今、わたしに言うの。
ねえ、こんな簡単に言えるなら。
ねえ、当たり前なら、ちゃんと育てろよわたしを。
ちゃんと見てよ、わたしを。
そう思ったけど。
もう、いいんだよ。
もう、いいんだ。
もう考えないでいいんだよ、わたし。
わたしは、わたしに優しくありたい。
わたしは、わたしのままで歩いていきたい。
「もう。どうでも、いいよ」
そう言って、わたしは母に背を向けた。
母は、もうなにも言わなかった。