みんな、ときどきひとり
ロビーに着くと、彼が目を閉じて椅子に座っていた。その顔は。長いまつ毛が強調されて、綺麗だと思った。
「だーれだ?」と後ろから、手で目を覆う。
「だーれだって。先輩しか、いないじゃないですか」
「なーんだ。つまらないの」
彼の隣に腰かけた。
「また意味のわからないことを……弟さんは?」
「全治4週間だって。足もあって、うるせぇとか言ってきて、全然、死ぬ様子もなかったよ。笑っちゃった。さっきの緊張なんだったんだろ」
「それは、良かったですね」
「うん。良かった。
わたしさ、弟のこと、好きか良くわかんなかったんだけどさ。
ずっと、弟ばっかりって思ってたから。
でも、元気な姿見て安心したんだよ。
……だからきっと、弟のことは弟って思ってたんだろうね」
やっぱり、好きとかよくわからないけど。
それでも、これから弟と何かあったとしても、まだ、〝兄弟だから〟って言葉で彼を赦せる気がしなくもない。
「なにかありましたか?」
また、弟や母のことを考えてしまいそうになる。
「ううん。もう、大丈夫」
「先輩はなにかあると、口数が多くなるから」
「ふ……そうだね」
含み笑いをした。
だけど、わたしは、わたしのことを考えたい。大切な人のことを思いたい。
時間を、誰かを恨んだりひがんだりするのに使うのは勿体ない。
だって、今、君が隣にいるから。
強くそう思うんだ。