みんな、ときどきひとり
「なにかしてほしいことは?」
彼が優しく口を開く。考えないと決めたドアが簡単に開いてしまいそうになる、その声。
無言で左右に首を振る。
「なにか言って貰いたいことは?」
「ううん。ない」
「なにかあったんでしょ?」
また疑るようにわたしに問いかけるから、やっぱり、言いたくなってしまうんだよ。
「母親に言いたいこと言ってきた」
「そうですか」
「すっきりした。
わたしの人生のうっぷんを晴らしてきたよ。
ホームドラマみたいな綺麗な和解も感動的な親子愛も無かったけど。
ねえ、馬鹿みたいだけど、頑張ったねって言ってくれる?」
そう言ったわたしの顔をまじまじと見つめた。
すっと腕が伸びた。
「よく頑張りましたね」と彼はわたしの頭を優しく撫でながら言った。
「ねえ。これって、またわたし、子供みたいかな?」
彼の優しい手のぬくもりが心を温めていくみたいで、目を閉じてそれを感じていた。
「俺ら、まだ子供ですよ」
ああ。そっか。
やっぱり、わたしたち、まだ子供なのか。
じゃあ、こんなんでいいのかもしれないね。
「水城くんは、さっきなにを考えてたの?」
訊くと、彼の指がピタリと止まった。
それを感じて「なにかありましたか?」と、彼の口調を真似してみる。
それに気づいたのか「似てませんよ」とフッと笑った。