みんな、ときどきひとり
「母親がいなくなってほしいって願ったんです」
トクンと心臓がびっくりした。
「そしたら、その年の今日、家のベランダから飛び降りて死にました。事故なのか、自殺なのかわからないんですけど」
無言で頷く。目頭がなぜか熱くなる。
「俺、母親のこと大嫌いだったんです。だから、本当にいなくなっても泣けなかった。むしろ、いなくなったことに、安心してました」
線香花火と少しの煙で水城くんの表情はよく見えない。
だからか、心から声を絞るように話しているみたいで、彼の声が心に響いてくるようで、痛かった。
「だから、普通の人っていう人から見られたら、きっとおかしいんでしょうね。
人が苦手とか、人を好きになる感情が分からないとか。
なんでですかね。
あれからこんなに時間は経ってるのに、変ですよね。
さっき、ずっと、そんなこと考えてました。
そんなことばかり、考えてました」
本当は。
わたしに、優しい言葉をかけながら、彼はきっとこうやって、自分を責めていたのかもしれない。
「ううん。変じゃないよ」
わたしは、そう思わない。
そう思わないよ、全然。
そんなこと、普通だよ。
そんな人、普通だよ。
こんなに、色んな人がいるじゃない。
わたしをダメだって思う母もいれば、わたしをダメじゃないって言う水城くんだっている。
きっとどっちも普通の人。
今ならそう思える。それは、水城くんに出会えたからだよ。