みんな、ときどきひとり

「今日は、怒鳴られましたけど」

「あっ。ごめんね。でも、水城くんだって、怒ってたじゃん」すねた口調で言う。

「あれは売り言葉に買い言葉ですよ。でも、先輩に楽なほうに行くなよって言われたときに気づかされましたけど」

「え?なにを?」

「楽なことを選んでたから、自分がだんだん苦しくなってたってこと」

「楽なこと?」

「まあ、色々と」

また、自分の話しは濁すんだ。

肝心なことは話す気はないんだな。

さっき、距離が近く感じた気がしたけど、やっぱりそうでもないよね。

わたしの勘違いか。それでもいいけど。

「そうだね。自分の本当の気持ちから逃げると苦しくなるよね」

そうだね。

本当に望んでいることがあるのに、楽なことを選ぶと、その距離がそこから離れれば、離れる程苦しくなった。

自分を誤魔化して生きることってできないんだな、って。

そう実感せずにいられない。

十字路を曲がって、少し歩くと、家の前に着いた。

電気が着いている様子はなく、母も帰ってきていないみたいだった。

「じゃあ」と呟く。

繋いだ手、離さなきゃね。

きっと、これは、今日だけの、誰かがくれたプレゼントなんだ。

この手を離したら、また、水城くんと話せなくなるのかな。

なぜかそう思ってしまう。

恐いけど。大丈夫だよね。

友達でもいいから、こうして話すくらいしていいんだよね。
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