みんな、ときどきひとり

「今日は、ありがとう。
用事あったとか言ってたのに、病院まで付き添ってくれて。
一緒に来てくれて助かった。
一人じゃ行けなかったし。
言えなかったこともあったから。
ありがとう」

わたしが今できる、一番の笑顔でそう言って、繋いだ手を緩めた。

「なにもしてませんけど」

いつもと変わらない無愛想な顔を見て、笑う。

手、まだ、繋がってる。

「手、離さないの?」そう訊くと、彼は繋がっている手を確認するかのように目線を下にした。

「手、離したいですか?」

意地悪な質問をしてきた。

それは、離したくないに決まってるよ。

でも、友達って思わないといけないから。

手、いつまでも繋いでちゃダメだよね。

「離したい」

嘘を言う口には、気持ちがこもらないな。

自分が正反対に落ち込んだ気持ちになるだけだ。

「俺は、離したくないですけど」

「へ?」

彼の言葉の意味がわからず、間抜けな声を出す。

その瞬間、わたしの手を握っていた彼の手がぱっと離れて、自由になった。

「えっ……離した」

わたしの驚いた表情を見て、口を手で押さえて「ぶっ」とまた噴き出す。

「ちょっと、なんで笑うの?」

また、すぐ馬鹿にするんだから。
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