みんな、ときどきひとり


「いや、先輩が可愛いなと思って」

「なにを……可愛かったら笑わないでしょーが」

もう、からかいやがって。

ひどいよ、そんなこと嘘でも意識しちゃうじゃん。

意地悪そうな顔から、目尻にしわを寄せて優しく微笑んだ。

彼の腕がすっと伸びて、抱き寄せられる。

わたしの顔が、彼の肩に優しくぶつかった。

ギュッと抱きしめられている。

「どうしたの?」

巾着が、わたしの手から、落ちた。

「さっきのお返しです」

「さっきのって……」

河川敷で、感情的に彼を抱きしめたわたしを思い出して恥ずかしくなった。

でも、嬉しいけど。

どうしたんだろう。

今日は、いつもの彼と違く感じる。

無愛想だったり、笑ったり、怒ったり、落ち込んだり、抱きしめたり。

「俺、嘘ついてました」

抱きしめたまま、彼はそう言った。

「嘘?」

「先輩は、頭の花より可愛いし」

「ふっ。花と比べないでよ」

「手だって、俺が繋ぎたかっただけだし」

「へ?」

「今だって、抱きしめたかっただけだし」

「水城くん?」

鼓動がぶつかり合って身体に響く。
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