みんな、ときどきひとり

渡り廊下から、笑い声がこだます。

さっきわたしを呼んだのは、思った通り鈴木亮太(スズキリョウタ)だった。

「ボール、すっげー綺麗に当たってやんの」

「うっさいなー!見てたの?」

「あー。超うける。ふはははは」

「笑いすぎなんだけど。ていうか、なんの用なの?」

「あ。そうだった。悪い悪い。数学の教科書貸してくれない?」

「またあ?」

「今度なにか奢るからさ」

「そんなこと言われて今まで一度も奢ってもらったことありませんけど」

「今度は必ず。田口さま」と、両手を合わせた。

わたしの目の前に駆け寄ってくると、ベンチに座っている梨花(リカ)と美和子(ミワコ)に目をやり、軽く笑った。

「こんなに借してるのに一回も奢ってもらってないんですけど」

「いやいやいや、奢りますってば。じゃあ、あとで2組行くから」

亮太はちらっと梨花たちを見て、梨花はにこりと微笑んだ。美和子も「あんた、借りすぎ」と笑いながら突っ込んでくる。

4人とも、1、2年がクラスが同じだったから未だに仲がいいんだ。

梨花と美和子とは、3年間同じクラスだから、特に。

「じゃあわたし、先に教室戻るね。もう食べ終わったから」

席を立って、まだお弁当を食べてる2人に声をかけると亮太はすかさず「おっ、さすが早食いだな」と言った。

余計なひと言に、亮太の頭をポンっと叩いた。
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