みんな、ときどきひとり
「どいてもらえませんか?」
そう言ったのは、さっきぶつかりそうになった男の子だった。
職員室のドアの前に立ち止まっているわたしをいかにも邪魔そうな口調で言う。
「すみません」
この人に何回謝っているのだろうか。まあ、わたしが悪いから仕方ないんだけど。
彼の顔を見たまま2、3歩前に出る。
一瞬前髪が揺れて、その男子の顔がはっきりと目に映った。
細めのきりりとした目に、鼻筋の通った高めの鼻。控えめの血色のいい唇。綺麗な顔をしてるな。少しだけ見とれた。
そんなわたしに気づいたのか、彼と目が合った。
その顔に昨日トイレで介抱してくれたキツネ男さんが重なる。
「えっ、カラオケの?」と指をさしながら、驚いて声を張り上げてしまった。
彼は、少しばつ悪そうに眉根を寄せた。
「よ……」と彼が言いかけた瞬間、冷や汗がでる。
もしかして酔っ払ったなんて言うつもり?職員室の前で?ばれたら大変だ。
「ちょっと、こっち行こう」と無理矢理、声で遮った。
慌てたわたしは、彼の腕を奪うように掴んで走った。