みんな、ときどきひとり
「えー。いいじゃん」と懲りずにタローくんは話しかけてくる。
「今、帰りですか?どっか行くんすか?」
「えーっと……どこにも行かないし、このまま帰りますけど」
「まじで?じゃあじゃあ、すっげーお願いしたいことあるんですけど」
「お願い?」
すっげーお願いってなんだろう。キツネ男は隣でやや呆れた顔をしている。
「実は明日、彼女の誕生日なんすけど、プレゼント買ってなくて。今から探しに行くとこなんすけど。どこ見ていいかわかんなくて。買い物に付き合ってください」
「えっ?ええっ?」
それから、彼女への熱い気持ちをさんざん聞かされた、要約すると好きすぎてなにをあげればいいかわかんなくなってしまったということだった。
なんだかめでたい人だな。毎日がお正月みたい。
「で、でも誕生日って明日でしょ?買うの遅いよ」
「やっぱり?いやあ、悩んでたら今日になってしまいました。ダハハハハ」
大口を開けて笑う顔には申し訳なさも感じられない。というより本気で言ってるのか冗談なのかわからない。
「だから、俺が一緒行くんだろ」とキツネ男が言った。
「そうだけどよ。やっぱ、女の子居た方がいいじゃん。男だけじゃわかんねーし」
キツネ男が無言でタローくんを睨みつけている。
ほんとに友達なのか、そこもいよいよ謎になってきた。