みんな、ときどきひとり
「でしょ?修がキッチンで、俺ホールやってんすけど、優菜さん、何回か見かけましたよ。覚えてないすか?」
タローくんの顔をじっと見つめてみる。こんないかつい人覚えてそうなのに記憶にない。
大体、顔も強面だし、ホール向きじゃない気がするけど。いいのか店長。キャップの下、坊主だけど。どうにもホールに立っているイメージが湧かなかった。
そんな心の声を押し殺しながら、一応の申し訳なさを演出した声で言う。
「ごめん。記憶にないや。でも前から会ってたんだね」
「ぐわあああ。覚えられてなかったかぁ。ショーック!」
本当、なんで覚えてないのか、不思議だけど。こんな濃いキャラな男の子なのに。
「あそこ行ってみない?」
大げさな反応を受け流しながら、指さした場所は高校生に大人気のアクセサリーブランドのお店だ。この前、美和子と学校帰りに見にきたときも可愛いアクセがいっぱいあったことを覚えている。
「うわ」と、キツネ男が低い声でうめいた。
確かに外装はピンクで可愛らしい雰囲気だし、いつも店内は女の子で埋め尽くされていて、男の子だけなら入りたくはないかもしれない。