みんな、ときどきひとり
「よっしゃ!入っちゃおうぜ!」
タローくんは、嫌な顔をしてるキツネ男を尻目にずかずかとお店の中へ入っていく。
この勢いがあるなら、わたしがいなくても大丈夫だったんじゃないかなぁと思う程、やる気に満ち溢れている。
ガラスケースの中には可愛い指輪やネックレスがたくさん飾られていた。
わたしも誰かにこんなプレゼントを贈って貰えたら嬉しいだろうなと、タローくんに思われてる彼女のことが少し羨ましくもなった。
「うわぁ。これ、わかんねぇなぁ」
タローくんがガラスケースをかじり付くように見ていると、「プレゼントですかぁ?」隙のないメイクをほどこした店員さんが営業用の高い声でタローくんに話しかけてきた。
「はい」と、自然に2人だけで会話が始まる。
完璧にわたしのいる意味がなくなってしまったみたいに盛り上がりをみせるから、隣で頷くだけになってしまった。
ふと店の外を見渡した。正面には小さな花屋があって、カーネーションや紫陽花が店頭に置かれていた。
そういえば、もうすぐ母の日か。居場所のなさに花屋でも行こうかと、その場を離れた。
「店員さんと決まりそうだから、ちょっとあっちの店に行ってくるね」とキツネ男に言い残して。