みんな、ときどきひとり
「俺、行かないけど」キツネ男がぼそっと呟く。
「えー?行くって言ったじゃんかよぉ」
「言ってないし」
言った、言わないで軽く口論し始めた2人をやや呆れた目で見つめてしまった。
「ほら。優菜先輩、嫌がってるし」
キツネ男がそんなわたしに気づいたのか話を急に振って来た。
しまった、油断していた。
わたしに振らないでよ!と心の中で文句を言いながら、作り笑顔をタローくんに向けた。
「優菜さん嫌なんすか?」
タローくんは捨てられた子犬みたいな目で懇願してきた。いや、子犬というより小熊かもしれない。
「えっ。嫌じゃないけど」
そう別に嫌というわけではない。だけど、行きたいわけでもない。
「でも、遊園地は仲いい人達で行ったほうが楽しいじゃない?」
遠まわしにうまく断ってみた……はずだったのに、タロー君はなぜか笑顔になっていた。
「ですよね。じゃあ、優菜さんも来てくれるんすね!」
「えっ?」
なんでそう受け取るのかな?いつの間にか初対面の私がタローくんにとっての、仲いい人達になっていたみたいだ。
慌てて弁解をと思ったけれど、口が動かない。嬉しそうな顔を裏切る勇気が湧かなかった。
キツネ男も観念したのか、なにも言わなくなった。