みんな、ときどきひとり

「じゃあ、番号交換して下さいよ」と、タローくんが携帯を差し出してきた。

仕方ないか。諦めて赤外線でわたしの番号を送る。

「優菜さんの番号すげー!下四桁、俺の誕生日」

タローくんは嬉しそうに笑ったけど、そうなんだくらいしか返事ができない。

キツネ男もこっちを見ていたから、社交辞令で「送る?」と訊いてみた。

「どちらでも」

なんだ、その上から目線は。だけど、自分から言っておいて送らないのも虚しすぎる。

迷った末、携帯を差し出して赤外線で番号を送った。

水城修 (ミズシロシュウ)と画面に表示された。

あの手紙に書かれた名前と同じ。

そこで気がついた。あの手紙は彼宛のものだと。よく考えてみたら、彼と擦れ違ったあとに手紙を拾ったから、不思議ではない。

ミズキじゃなかったんだ。大きな美和子の勘違いに少し笑いたくなる。

「じゃあ、俺今からバイトなんで」と彼が言うと「じゃあ、またな」とタローくんが見送ってしまったので、渡しそびれた。
< 63 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop