みんな、ときどきひとり
帰りの電車は途中までタローくんと一緒だった。手すりにつかまり並ぶ。
「でも、まじびっくりした。優菜さんに会えるなんて」
「えっ?」
「ほら、トムボーイに何回か食べに来てたじゃないですか?俺、実は来るたび彩音(アヤネ)に似てるってはしゃいでたんすよ」
「彩音って?」
「モデルですよ。彩音りか。知らないんすか?」
代わりに梨花の顔が浮かんだ。
「知らないな」
「本当に?」
「うん。人に似てるって、あんまり言われたことないけど」
「すっげーそっくりというわけじゃないんですけど。なんか、雰囲気っていうか。なんとなくですけど」
「ふうん」
「いや。まあ。彼女一筋ですけどね」と、訊いてもいないのに、弁解してくる。
知ってるよ、そんなこと。
プレゼントを抱えた手さえ、嬉しいと話してるみたいに思えるもん。
「でも修にも一回、優菜さんのこと見せたことあるから顔知ってるはずなのになぁ。あいつなにも言わねぇでやんの」
こいつら、バイト中になにをやってるんだろう。やや冷めた目線で見てしまう。
それにしてもモデルに似てるなんて、悪い冗談ならやめて欲しかった。
「そうだったんだ」
「あいつも可愛いって言ってたのにな。友達甲斐がない奴っすよね。教えてくんないなんて」
ケラケラと笑いながら電車を降りて行った。