みんな、ときどきひとり



その日は、朝からついていないと思った。

下駄箱を出たところでキツネ男……もとい水城くんに偶然出会ったからだ。

「おはよう」

仏頂面で一応の挨拶をする。

「おはようございます」

彼も同じような表情、いや、わたしよりぶすっとしているかも。負けた気分になる。

少し間を置いて、彼が言った。

「この前の嫌だったら断っておきますけど。遊園地」

「ああ。大丈夫、大丈夫」

見透かされたみたいで腹がたつ。実際乗り気じゃないのは否定しないけど。

「先輩って、付け込まれやすいですよね」と言うと彼はスタスタと先を歩いて行った。

「な……なにそれ!」

自分でもわかってるけど。相変わらずの上から目線はやっぱり腹が立つ。

感じの悪い奴。なんかわかんないけど無表情だし。言葉にいちいちトゲをつけないと話せない人みたいだし。

「あ。ちょっと待って」

そう言えば、あの手紙をまだ渡していなかったんだ。

こんな奴宛の手紙なんてろくなもんじゃないよね。不幸の手紙でありますようにと心の中で願ってしまう。

「前から渡そうと思ったんだけど、実はこれ拾っちゃって」

鞄の内ポケットに手を置いてヒヤリとした。

なくさないように鞄の内ポケットに入れておいたはずだったのに、なくなっていたからだ。

お腹と太腿で鞄を挟みながら、教科書を取り出して探しても見当たらない。なくしたのかもしれない。
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