みんな、ときどきひとり
◇
その日は、朝からついていないと思った。
下駄箱を出たところでキツネ男……もとい水城くんに偶然出会ったからだ。
「おはよう」
仏頂面で一応の挨拶をする。
「おはようございます」
彼も同じような表情、いや、わたしよりぶすっとしているかも。負けた気分になる。
少し間を置いて、彼が言った。
「この前の嫌だったら断っておきますけど。遊園地」
「ああ。大丈夫、大丈夫」
見透かされたみたいで腹がたつ。実際乗り気じゃないのは否定しないけど。
「先輩って、付け込まれやすいですよね」と言うと彼はスタスタと先を歩いて行った。
「な……なにそれ!」
自分でもわかってるけど。相変わらずの上から目線はやっぱり腹が立つ。
感じの悪い奴。なんかわかんないけど無表情だし。言葉にいちいちトゲをつけないと話せない人みたいだし。
「あ。ちょっと待って」
そう言えば、あの手紙をまだ渡していなかったんだ。
こんな奴宛の手紙なんてろくなもんじゃないよね。不幸の手紙でありますようにと心の中で願ってしまう。
「前から渡そうと思ったんだけど、実はこれ拾っちゃって」
鞄の内ポケットに手を置いてヒヤリとした。
なくさないように鞄の内ポケットに入れておいたはずだったのに、なくなっていたからだ。
お腹と太腿で鞄を挟みながら、教科書を取り出して探しても見当たらない。なくしたのかもしれない。