みんな、ときどきひとり
教室へ行って、しぶしぶ教科書を亮太に差し出すと、「サンキュ」と言って受け取った。
「感謝しなさいよ」
「あっ、ここやってある。今日も助かります」
教科書をペラペラと指でめくっている。
「亮太のクラスより進んでるからね。書き込んであげてるの。出来る女でしょ」
「ははぁ」
時代劇で、家来が将軍さまにふれひすような声を出したあと、思いがけないことを言った。
「そういや、今日暇か?」
「うん。暇だけど?」
「じゃあ、奢ってやるよ。日ごろの御礼に」
「まじで?なになに?」
「食べ放題。大食いのお前にピッタリだろ」と、言ったあと、上目遣いでにやりと笑った。
「ちょっと、大食いは余計なんだけど」と、亮太の肩をパシっと叩いた。
「って、がっついて食べるくせに」
「うるさいな!」
「やべ、殺されそう。じゃあ、帰りな」
オーバーリアクションで肩をすくめながら、わたしの教科書を持って廊下へと出て行った。