みんな、ときどきひとり

まずい。

脳裏にその言葉が過ぎった。わたしがしたわけじゃないのに後ろめたさを感じて、とっさに鞄を広げ、教科書の間に挟みこんだ。

「おはよ」

慌てたせいで、声が裏がえってしまった。

「おう。つうか朝、知らない男と話してたけど。もしや彼氏か?」

ニヤニヤしてあきらかに、怪しんでいる顔だ。

「かっ、彼氏?」

もしかして、下駄箱で話しているの見られたのかな?

「だろ?こっちから見てたらいい感じに見えたぜ」

「はっ?ち、違うよ!友達!」

いい感じもなにもない。ましてや友達でもないけど。あの腹立たしい光景が、なんでそんな風に映ったのか、亮太の視力を疑う。

「ほんとかよ?」

「ほんとだよ」

「へえ」

信じていないのかまだにやけた顔をしている。

Tシャツに吐いたことがきっかけで知り合いましたとまでは、さすがに亮太には言えない。

「冷やかしたかっただけでしょ、あんた」

「ばれた?偶然通ったら見つけたから、訊かずにいられなかったっつうの。まあ相談なら乗るからさ、頑張れよ!」

「だから!違うってば!」

聞こえたのか聞こえていないのか、後ろ手を振って職員室へと消えた。

言いたいことだけ言って。

楽しそうに。

だから、違うってば。

亮太。
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