みんな、ときどきひとり
母とわたしの間にはなにもないはずなのに、見えない国境があるみたいに感じた。
言葉も文化も宗教も、まったく違う国同士の。なにを言っても、通じあえず、わかりあえない。
こんなに近くにいるのに。
向き合っているのに。
話をしても、お互い理解できないのはそのせいなんだと、時々思う。
「ちょっとこれ片してもらっていい?少し目まいがしてきちゃった。横になりたいの」
母はわたしの返事も聞かずに、手で頭を押さえながらよろよろとした足どりでリビングを出て行った。
わたしは、リビングに残されたさっきまでラッピングされていたはずのカーネーションを手に取った。
母は昔からそう、大を溺愛しているんだ。
小学生のときに一緒に描いた似顔絵だって、弟の大だけを誉めて、わたしはお姉ちゃんだからもっと上手になりなさいと言われたし。
中学生のときの期末テストで学年で十位以内に入ったときも、もっと上を目指せと言われて、小学生の大の漢字テストが満点だったことを誉めたし。
志望校に合格したときも、受かって当たり前でしょと言われて、大の中学祝いには嬉しそうな顔をしていたし。