みんな、ときどきひとり





観覧車が一周してスタート地点に戻ってきた。

ゴンドラを降りて、さっき座っていたベンチへと向かう。

「ねえ、水城くん」

少し前を歩く彼が振り向く。

「水城くんって、意外に話しやすいね」

「わざわざ言うことですか、本人に」

「あははは。なんか、言いたくなっちゃった」

「変な人ですね」

「そうかなぁ。水城くんのほうが変だけど」

そう言うと、正面からタローくんたちがやって来た。

「修、電話でろよ」

わたしたちを見つけて手を振りながら大声で叫ぶ。

「ああ。気づかなかった」

水城くんは素っ気なく言った。

「どこ行ってたんすか?」

「ごめん、観覧車乗ってたの」

「まじすか?観覧車って言ったら大イベントじゃないですか?ずりい!2人で!」

「えー。いいなぁ。こっちなんか長くて歩き疲れちゃっただけでしたよ」と、真理恵ちゃんがくたびれた声を出す。

「ごめん、ごめん。待つの暇だったから」

言い訳を口に、謝ってみた。

みっちゃんもぐったりした顔をしていたから、本当に長い距離歩いて叫んだりしたんだろう。

行かなくて良かったと心の底から思ってしまった。

「タロー、そろそろ帰る。俺バイトだし」

水城くんが携帯で時間を確認する。

「あ。そうだ、今日バイトなんすよ俺ら」

「あっ、そうなんだ」

心の中でほっとする。正直、もうそろそろ帰りたかったから。

それから駅前で解散すると、まっすぐ家路についた。

帰りの電車の中。揺れる景色を見たり、広告を眺めたりして。
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