みんな、ときどきひとり
家に着いて玄関を開ける。
キッチンの明かりが見えると、母の鼻歌が聞こえてきた。
なんか機嫌良さそうだな。
「ただいま。今日、ご飯なに?」
「あっ、お帰り。ハンバーグよ。大が好きな」
母は野菜をトントンとリズムよく包丁で刻み続けている。
母のハンバーグはわたしも大も好きだ。お腹も鳴りそうなくらい減っていたから、余計に待ち遠しい気持ちになる。
ふと朝の光景を思い出したけど、嘘のように思えた。
「具合、良くなったんだね?」
「そうね。だいぶね。それより、再来週の土日にパパ帰ってくるって」
「あっ、そうなんだ」
父は今、福岡に単身赴任をしている。母はその話を聞いて機嫌が良くなったんだと悟った。
「ゴールデンウィーク帰ってこれなかったでしょ。だから、再来週一泊だけでも温泉行くとか言う話をしててね」
母の声は、はずんでいる。
「ふうん」
「楽しみね」
「土曜日、予備校」
休んでもいいなら行けるけど。無理だろうな。