みんな、ときどきひとり





家に着いて玄関を開ける。

キッチンの明かりが見えると、母の鼻歌が聞こえてきた。

なんか機嫌良さそうだな。

「ただいま。今日、ご飯なに?」

「あっ、お帰り。ハンバーグよ。大が好きな」

母は野菜をトントンとリズムよく包丁で刻み続けている。

母のハンバーグはわたしも大も好きだ。お腹も鳴りそうなくらい減っていたから、余計に待ち遠しい気持ちになる。

ふと朝の光景を思い出したけど、嘘のように思えた。

「具合、良くなったんだね?」

「そうね。だいぶね。それより、再来週の土日にパパ帰ってくるって」

「あっ、そうなんだ」

父は今、福岡に単身赴任をしている。母はその話を聞いて機嫌が良くなったんだと悟った。

「ゴールデンウィーク帰ってこれなかったでしょ。だから、再来週一泊だけでも温泉行くとか言う話をしててね」

母の声は、はずんでいる。

「ふうん」

「楽しみね」

「土曜日、予備校」

休んでもいいなら行けるけど。無理だろうな。

< 95 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop