幸せって、なに
「ごめんなさい。決して忘れてはいないわ。
母親ともどもよくしてもらったんだもん。
ただ、大きくなると」

そこまで言うとおばさんは遮って言った。

「わかってるわよ。それが大人になるって事だから。
あがってく?お茶くらい出すわよ。」
「いいんですか?お邪魔じゃ。」
「何遠慮してんのよ。
小さい時は言う前にあがり込んでて、
冷蔵庫の中覗いてたじゃない。」
「すみません。あの頃の私がここに居たら
叱ってやりたいです。」

ふたりは笑いながら居間にあがった。

何もかもあの頃のままだった。
みやげ物のこけしやグラスが並んだワインボードの上には
だんなさんがゴルフコンペで
三位になった時のカップが置かれている。

壁にはおばさんが描いたという
風景画が額に入って飾られている。
えらく自慢していたものだが、今見ても上手とは思えない。
きっと見る人が見たらいい作品なんだろう。

右横の柱を見た。
< 52 / 203 >

この作品をシェア

pagetop