それでも君が必要だ
静かに響いたその言葉に、空気がビシッと凍りついた。
……えっと。
今、断られたの……?
どうして?
柴田専務が慌てて半分腰を上げる。
「なっ!?智史君?何を言ってるんだ!」
「……智史」
社長さんも困った様子。
副社長さん、縁談を断るってこの二人には言っていなかったの?
そんな不意打ちをして断ろうとするくらい、この縁談が嫌だった?
突然のことに慌てふためく柴田専務と社長さんとは別世界にいるように副社長さんと父の間には冷気が漂っていた。
父は黙って何も言わない。
この状況で、この父の静けさは不気味。
どうするつもりなの?
それに副社長さん……。
断るなんて、どうして?
私のせい、かな?
私に魅力がないから……。
副社長さんは、一瞬チラッと私を見てため息をつくと静かに言った。
「申し訳ありませんが、この縁談はお断りさせていただきます。こんなものは茶番ですよ。美和さんだってこんな婚約、嫌でしょう?」
バッとその場の視線が全て私に集中した。
エッ!?
そんな……。
いきなり私に振られても……。
困って固まったまま動けなくなる。
いいとか嫌とか、考えたこともなかった。
私には拒否する選択肢なんてなかったもの。
「こんな不細工な娘では気に入らないかね?」
ようやく口を開いた父の言葉に、また密かに傷つく。
「……申し訳ありません」
落ち込み目を閉じうつむいて、小さな声で謝った。
そうですよね?
すみません……。
不細工がこんな可愛い格好なんかして、見苦しかったですよね?
本当にごめんなさい。
副社長さんは表情を変えることなく、少し顔を上げた。