それでも君が必要だ

私、智史さんのお役に立ちたい。
だからやってみよう。

智史さんは一瞬止まってじっと私を見つめた。

「美和さん……大丈夫?俺みたいに腹黒いと平気で白々しく演技しちゃうけど、美和さんは真面目だからさ……。なんか、心配になってきた。やっぱり、やめようか」

そんなっ!大丈夫!
私、智史さんのお役に立ちたいの!
やめなくても平気!

訴えるように智史さんを強い視線で見上げた。

「大丈夫です!」

私のハッキリとした声に智史さんは驚いて、目を大きく開くとパチパチまばたきをした。

「そ……そう?でも、ホントにいいんだ。俺の気まぐれな思い付きだし」

「いえ、大丈夫です」

何の根拠もないけれど、どういうわけか急に自信がわいてきた。

だって、話を盗み聞きするだけでしょう?たいしたことじゃないもの。全然平気。

私が一人でうなずいていると、智史さんはまた心配そうな顔をした。

「じゃあ、通り過ぎた時に聞ける範囲でいいよ。……君のお父さんには絶対に感付かれない方がいいでしょう?」

それは、確かにそう……。
こそこそしているのを父に見つかったりしたら、とんでもないことになる……。

つまり、見つかった時、いかにこそこそした感じを出さないか、が重要なわけですね。

できるかな?
反射的に萎縮してビクビクしてしまいそう。
……ビクビクしなければいいのかな?
じゃあ、どうするのがいいの?

あれ?
こういうのを考えるのって、なんだかちょっと楽しいかも。

「俺はここにいるから、万が一何かあったらすぐに電話して。飛んでいくから!あっ、そうだ!携帯貸して」

「?……はい」

パッと大きな手のひらを目の前に出されて不思議に思いつつ、智史さんにバッグからスマホを出して渡した。

長い親指をスルスルと動かし、集中して何やら入力する智史さん。
眼鏡にスマホの白い画面が映っている。

さっきも思った。
画面を映す眼鏡の奥の智史さんの瞳。
キラキラ輝く黒くて大きな瞳。
キレイな瞳……。

そんな呆けた私に智史さんは満面の笑みを向けた。
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