それでも君が必要だ
この婚約で私が父から言われているのは、とにかく相手に気に入られるようにしろ、ということ。
相手に気に入られるなんて、本当はどうしたらいいのか全然わからない。結局今でもどうしたらいいのかわからないまま。
それでも試行錯誤をして、相手の望み通りにできるよう一生懸命相手に合わせて頑張ってきた。
でもなぜか、頑張れば頑張るほど相手を怒らせてしまう。
「イライラする」とか「面白くない」とか言われて。
うまく表情を作れないからいけないのかな……。
もちろんそれだけじゃなくて、私が本当につまらない人間だからいけないんだけど。
そして、私がどんなに頑張っても時期が来ると父は婚約を破棄してしまう。
その繰り返し。
でも、父が婚約を破棄するのは、私が相手に気に入ってもらえなかったからではないと思う。
もし私のせいで破談になったのなら、父の逆鱗に触れて私は無事ではいられないはず。
でも今のところそんな気配はないから、私は父の望み通りに行動できているんだと思う。
そして、今度も抜かりなく私は父の望む通りに行動しなければならない。
父が私の婚約を利用して裏で何かをしているのはわかっている。
父は私を仕事の取引に利用している。
それはわかっている。
でも、私を何に利用しているのかなんて、とてもじゃないけど聞けない。
わかったところで何かをできるわけでもない。
だから私は、何も知らないふりをするだけ。
今回の婚約者……どんな人だろう。
この門をくぐるたびに、ドキドキと緊張して気持ちが悪くなる。