それでも君が必要だ
「そんなことはありませんよ。……さて、美和さん。お料理がたくさん溜まってしまいました。美味しかったですよ。早くお食べなさい」
社長さんに言われて少し顔を上げると、目の前にはたくさんの綺麗な料理が並んでいた。
席を外してしまった間の料理かな?
「お前が遊んで戻って来なかったのがいけないんだ。お前はもう食うな!」
「……はい」
父ならそう言うと思った。
家でもいつもそう。
父はいつも、父にとって好ましいタイミングで食べ進まないと、そして同時に食べ終わらないと機嫌が悪くなる。
食べるのが早ければ「このブタ」と言って物を投げてくるし、遅ければ「のろま」と言われて食事を捨てられてしまう。
だから食事の時はとても気を遣う。
せっかく食べるように勧めてくれたのに食べないことになってしまい、社長さんに申し訳なくてチラッと見ると、社長さんは困った顔をして微笑み、それ以上はもう何も言わなかった。
この社長さんは根っから優しい人なんだろう。
それなのに、嫌な思いをしましたよね?
本当にごめんなさい。
「時に副社長……いや、智史君。娘と出かけてくれるようだが、これでも大事な一人娘だ。まだ婚約中という立場をわきまえて、おかしなことは考えないでくれたまえ」
急に何かと思ったら……。
父は全く同じ台詞を前の二回の婚約の時も言っていた。
そんな言葉に効力なんて全くない。
それに、そんなことを言うくらいなら露出の高い服を着て行けとか言わないでほしい。
「ご心配には及びません。大切な娘さんであることは重々承知しております」
副社長さんはやっぱり表情を変えず、冷静に返答した。